沖縄県「公共交通活性化に関するアンケート調査」について(1)

2018/08/11沖縄のバス

沖縄県のサイトにて「公共交通活性化に関するアンケート調査」が行われています。回答は9月30日まで。抽選で100名にOKICA2000円分が当たるそうです。

この手のアンケートは回答する人が少ないのか当選率が高く、前回のアンケートでは私もOKICAが当たりました(記事:バス利便性アンケートのお礼届いた+OKICAを便利に使う工夫)。

このアンケートは「9月30日までに、電子メール、FAX等で交通政策課に返信・返送」とのことですが、同サイトのアンケート調査票には「アンケート用紙を返信用封筒に入れて(切手を貼らずに)ご投函下さい」と書かれています。どうやって電子メールで送ればいいのでしょうか。添付ファイルでいいのでしょうか? (どうやって?)

目次

アンケートはどうあるべきか?

アンケートを行う場合は、回答者が正しい情報をもとに判断できるようにすべきです。情報が不足していたり誤っていた場合は、正しい判断ができなくなる恐れがあります。専門性が必要な設問であれば、なおさら、正しく・わかりやすい情報が必要になります。

しかし、特に行政のアンケートに顕著なのは「期待する回答を得る手段」としてアンケートが使用されることです。最近ではサマータイムに関する世論調査が話題になりました。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策についてうかがいます。大会組織委員会は、気温の低い早朝を有効に使うため、日本全体で夏の間だけ時計を2時間進める「サマータイム」の導入を提案しています。あなたはこの案に賛成ですか。反対ですか。

 賛成 53
 反対 32
 その他・答えない 15

サマータイムになると切り替えタイミングで起床時刻を早めたり・遅らせたりする必要があり、健康に悪影響であることは指摘されています※1。すでにサマータイムを導入している国でも健康被害を避けるために廃止する動きもあります。例えば、保育園や小学生に通うお子様の睡眠時刻をいきなり2時間早めたり・遅らせたりできるでしょうか?

さらにサマータイムを実施するためにはITシステムの改修や買い替えが発生します。家庭にある電波時計やビデオ録画装置も買い換えないといけないかもしれません。改修にかかる費用は数千億円、あるいは数兆円に達するという見積もりもあります※2。これは本来であれば研究開発等の別用途に使えたお金が、健康に有害な目的のために消えてしまうということでもあります。

これらの問題点を書かずに、暑さ対策のメリットだけを質問文に書くのは誘導尋問と言っても過言ではないでしょう。アンケートに回答する前に、よくよく情報を集めないと騙されてしまします。
(ちなみにサマータイムは暑さ対策にすらならないということも既に指摘されています)

※1 サマータイム―健康に与える影響― 日本睡眠学会
※2 サマータイム実施は不可能である - 立命館大学情報理工学部 上原哲太郎

まずパンフレットを読んでみる

さて今回のアンケート調査票には“回答する前に、同封するパンフレット「よりよい沖縄のために」をお読み下さい”と書かれています。この調査票、現在の沖縄県の公共交通の状況が簡潔にまとまって良い資料なのですが、ツッコミどころも満載です。誘導と考えられる記述もあり、鵜呑みにできない部分もあります。

原点が0%でないグラフ

例えば下記の図。バスの輸送人員、自動車の保有台数の推移が書かれています。右の折れ線グラフはなぜか原点が0ではなく30%になっているため、実際の数値よりも減ったように見え、今にも全滅しそうに見えています。公共交通に対する危機感を煽るつもりなのかもしれませんが、正しくデータを提示して欲しいものです。


(バスの輸送人員が下げ止まったという記述があるのは、本ブログの記事を見てたりするのかな?:バス利用者の減少傾向について

通勤者53人がバスを利用した場合

53人がバスに移動すると車の1/10のスペースで済み、渋滞が緩和されるという図。ちょっと極端すぎます。子供の送り迎え等で2名以上乗車している車も多いので、ここまで渋滞緩和にはなりません。また53人も乗るとバスはぎゅうぎゅう詰めになりますので、乗車も降車も大変。

また渋滞解消のためには自動車交通量の1割程度が公共交通等にシフトすれば良いという分析も既に行われています※3。極論を書くのではなく現実的な解説をして欲しいものです。

※3 「わったーバス大実験」の実施について ~1人ひとりの少しの工夫で渋滞をなくそう~


バス・モノレール等公共交通の利用率

バスやモノレールなど公共交通の利用率が全国の1/10だというグラフ。これは当たり前です。他県にはJRや私鉄、地下鉄などがあり、公共交通機関が充実した大都市圏も含まれています。全国の利用率には県間移動も含まれています。大都市圏でもなく、他県への移動にバス・電車が使えない沖縄の利用率が低くなるのは当然です。

ちなみにグラフの元データは「貨物・旅客地域流動調査 旅客地域流動調査 平成21年分 – DATA GO JP」に存在します。本グラフの全国の利用率は「輸送機関別旅客輸送量(全国輸送量)」のJR+民鉄+乗合バスの合計を全輸送量で割った結果(29.9%)と一致します。また、沖縄の利用率は府県相互間輸送人員表の沖縄→沖縄間の移動を抜き出し、民鉄+乗合バスの合計を全輸送量で割った結果(3.2%)と一致します。輸送量ですので、全国のデータには人口の多い大都市圏の利用率が大きく影響します。

さて、これは正しい比較なのでしょうか? 鉄道比率が高くなる県間移動、大都市圏での鉄道利用を含んだ「全国」と「沖縄」を比較して何がわかるのでしょう? 沖縄と他県の比較にはふさわしくない資料だと考えます。比較可能なデータを使って、類似県と比較した方が良い考察が得られると考えます。

ちなみに新しい28年度版国土交通省/最新の旅客地域流動統計(Excel形式)も利用できたはずなのに平成21年版(2009年)を使っているのも謎です。実は2009年には新型インフルエンザによりモノレール利用は1日あたり2000人以上減っています※4。なぜ利用者が公共交通機関を避けた時期のデータをわざわざ使ったのでしょうか?

※4 ゆいレール整備による経済効果調査 平成25年6月株式会社 りゅうぎん総合研究所


沖縄県が資料とした旅客地域流動調査では他県の資料が参照できないので、代わりに平成22年国勢調査の利用交通手段を見てみましょう。沖縄の「自家用車のみで通勤・通学する人の割合」は、他県と比べても特に多いわけではありません。沖縄よりも自動車比率が低いのは大都市圏と北海道・和歌山・高知だけです。沖縄県はバスとゆいレールしかないにも関わらず、通勤・通学における公共交通の利用率はむしろ高い方だと言えます。


続く

長くなったので続きは別記事にします。調査しながら書いているので、しばらくお待ちください。

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Posted by ず@沖縄