東京新聞の部数は原発事故後に飛躍的に増えたのか?
Twitterで見かけた情報は以下の通り。○×は私の調査による真偽の判定結果。?は判定不能。毎度のことながら「正しい情報に巧みに誤情報を混ぜた一見良い話に、人は釣られやすい」ものだと思う。
- 広告収入が減った→?
たぶん回復している(追記:減ったままでした。末尾に追記します) - (減少理由は圧力によるもの)→?2011年度は震災の影響で減少。
2012年は回復したと思われる - 売り上げ部数が飛躍的に増えた→× 減っている
- (部数増は読者の支持による)→? 不明。少なくとも部数は増えていない。
- 福島特別支局を新設した→ ○
- (その原資は売り上げ部数増による)→× 部数が増えていないので原資になりえない
福島特別支局の新設について
まず、5の福島特別支局の開設についての情報は正しい。中日新聞・東京新聞から下記のリリースが出ている(東京新聞は中日新聞グループである)。
この支局の規模については、「2012年12月3日付文化通信」に1部屋+駐在1名と書かれているらしい。
「東京新聞が福島に特別支局開設 福島民報が協力、継続取材拠点として – edgefirstのメモ」から孫引きする。
駐在するのは編集局次長から異動した原発事故問題を担当する編集委員1名だが、定点観測の拠点とし、社会、特報、科学、写真の各部記者の取材基地として活用するとのこと。部屋を貸し出す福島民報側も歓迎
売り上げ部数は飛躍的に増えたか?
東京新聞は日本ABC協会の認証を受けているので、そこから部数の推移がわかるはず、である。Webを検索してみると、ABCレポートを情報源とする資料があり、それによると部数は半期あたり5000部ほど減少している。2012年上期までこの傾向は変わっていない。
部数推移:55.5万部(2010上期)→54.9万部(2010/12)→54.5万部(2011上期)→53.8万部(2011下期)→53.5万部(2012年上期)
他の新聞社同様東京新聞も長期低落傾向にあり、震災後に「3.売り上げ部数が飛躍的に増えた」という事実はなさそうだ。「6.福島特別支局の開設原資は売り上げ部数増によるもの」とも言えないと思われる。
- 朝刊 535,227部 夕刊 209,562部
(2012年1月~6月ABCレポート) – 株式会社東京アドレップ|東京新聞・東京中日スポーツ・中日新聞の広告窓口 - 東京新聞の12年上半期ABC公査部数は53万部半ば、前年同期比約1万部減、11年下半期比約3千部減 – Twitter / dokuritukisya
- 朝刊 538,252部 夕刊 211,003部 (※出展ABCレポート 2011年7~12月半期レポート)- 東京新聞 株式会社東京アドレップ|東京新聞・東京中日スポーツ・中日新聞の広告窓口
- 朝刊 東京新聞 538,252部 夕刊 東京新聞 211,003部 (出典:ABCレポート 2011年7月~12月半期レポート ※総販売部数は6ヶ月の平均販売部数) – 雑報広告ガイド 中日新聞
- 東京新聞 545,577部(226,875部) 出典:ABCレポート2011年1-6月半期レポート –
中日新聞グループ媒体資料(PDF) - 発行部数(日本ABC協会調査・朝刊のみ)は549,302部(2010年12月) – 東京新聞
- 東京新聞 555,278(部数:無印 ・・・2010年1月~6月ABC)
– リンナイ(株)及び(株)ガスター製給湯暖房用熱源機の自主点検・修理について
ちなみに、部数が落ちているのは東京新聞に限った話ではなく、新聞全体の傾向である。これについては以前から雑誌等でも特集されている。このような状況で部数が増えるというのは相当なことであり、元の情報を疑った理由の一つでもある。
- 新聞・テレビ 複合不況 崖っ縁に立つマスメディアの王者 – 週刊 ダイヤモンド 2008年 12/6号
- 再生か破滅か 新聞・テレビ 断末魔 – 週刊 東洋経済 2010年 2/20号
- 新聞・テレビ 勝者なき消耗戦 – 週刊 ダイヤモンド 2011年 1/15号
東京新聞や産経新聞は全国紙に比べて安いので 他紙から変更する人が増えているという説もあるが、上記を見る限りではそれも嘘っぽい。お金がない人は単に新聞購読を止めちゃうんじゃないかな。ネットでも主要記事は見れるし。地方紙なら地域情報で差別化できるけど、東京だとそれも難しいだろうし。
(東京新聞って赤旗よりも安いのね… 聖教新聞よりは高いけど)
広告収入は減ったか?
中日新聞社も含めて多くの新聞社は未上場企業であり、広告収入等の詳細な資料は公開されていない。“東京新聞 広告収入”で検索すると減ったという話はあるが、元になる資料がまったく見つからない。「大手企業の広告がない」と書かれているページもあるが、他紙比較や継続調査されていないので検証しようがない。
なお、決算情報だけなら文化通信に記事があり、先頭部分だけ無料で読めるのでこれから推測してみよう(全文読むには6000円かかるのでさすがに躊躇している…)
文化通信の記事によると 2011年度の中日新聞社は売り上げ・利益ともに増えている。新聞販売部数が減っていること、2011年3月期決算(2010/4-2011/3)で「日本大震災発生後の掲載自粛による広告収入の大きな落ち込み」と書かれていることから、掲載自粛からの回復により広告収入が増えたと思われる。ただし東京新聞単体については この資料からはわからない。
(この項間違っていました。売り上げ増は「10年11月末に開業した品川フロントビルの年間賃貸収入約50億円」によるものだそうです。ということは、広告収入も回復していないのですね… yas_malさんありがとうございます)
@zu2 今年5月の「週刊東洋経済 臨時増刊 進化する名古屋」に中日新聞について記事があります。2011年度の増収増益は「10年11月末に開業した品川フロントビルの年間賃貸収入約50億円」です。同記事には広告・販売収入のグラフも載っていて、数字は読めませんがともに右肩下がりです。
— まる (@yas_mal) December 30, 2012
実際に教えていただいた進化する名古屋 週刊東洋経済 臨時増刊をポチって該当箇所を読んでみた。電子版はこういうときに便利だ。
ところで、この表紙は誰だろう?……SKE48かー。
86ページに2006年を100とした販売収入と広告収入がある。グラフから前年比を読み取ってみると、販売収入は前年比99-98%で安定していたのが 2011年・2012年は落ち込みが増えている(前年比96%,92%)。広告収入はリーマンショック(2009年)に大幅(84%)に落ち込んだが、2011年、2012年は前年比95%程度。2012年に関しては広告部数減よりも販売収入減が比率としては大きいようだ。(なお、2012年については中間期の値)。
後述するように、新聞業界全体では広告費は2011年の場合前年比で93.7%。業界平均よりも中日新聞は健闘していると言える。
中日新聞の決算まとまる 2012.06.11
中日新聞社の2011年度決算がまとまった。それによると、売上高は1480億9930万円(前年同期比2・8%増)、営業利益は34億5631万円(同630・4%増)、経常利益49億571万円
メディア産業の総合専門紙-文化通信:ニュース総合
中日、減収減益決算 2011.06.07
中日新聞社の11年3月期決算が、このほどまとまった。東日本大震災発生後の掲載自粛による広告収入の大きな落ち込みと、販売収入の減少幅拡大で、売上高は5年連続の減収となる1440億9200万円
メディア産業の総合専門紙-文化通信:ニュース総合
中日新聞社 2010年3月期
中日新聞社の09年度決算がこのほどまとまった。それによると、販売収入、広告収入減少の影響で、売上高は前期比5・5%減の1461億7900万円で4年連続の減収に。
メディア産業の総合専門紙-文化通信:決算
なお、2010年度→2011年度の売り上げ増(約40億円)を新聞の部数増だけで賄うとしたら、1部100円の新聞を8000万部(1日21万部)増やす必要がある。さすがにこれはありえない。まして、ABCによると部数は減少しているのだし。
新聞社も含めて旧メディアの広告収入も長期的には減る傾向にあるのは、先の雑誌等でも報道されている通り。たぶん東京新聞の広告収入も以前に比べれば減っているだろう。しかし、それが「圧力」によるものかはわからない。特に2011年度は震災の影響で出稿を取りやめた企業も多いので。
圧力だと断言しているページやTweetは、何を根拠にしているのだろうか?教えて欲しい。
なお、新聞業界全体の広告費に関しては電通が取りまとめた資料があるので、以下に引用しておく。
- 2011年の新聞広告費は5,990億円、前年比93.7%と推定 - 【電通】2011年 日本の広告費(新聞/雑誌/ラジオ/テレビ/マスコミ四媒体広告制作費)
- 2010年の新聞広告費は6,396億円、前年比94.9%と推定 – 【電通】2010年 日本の広告費(新聞/雑誌/ラジオ/テレビ/マスコミ四媒体広告制作費)
- 2009年の新聞広告費は 6,739億円、前年比81.4%と推定 – 【電通】2009年 日本の広告費(新聞/雑誌/ラジオ/テレビ/マスコミ四媒体広告制作費)
結論:
流布している東京新聞に関する噂には、事実と異なる情報が含まれている思われる。そのため、その原因とされている「圧力」や「読者の支持」についても、そのような事実はないか・かなり疑わしいと思われる。
なお、広告収入については根拠となる情報が見つからなかったので、どなたか教えていただけると幸いである。
追記:
先に追記したように2011年度の増収増益は「10年11月末に開業した品川フロントビルの年間賃貸収入約50億円」によるものでした。
- 広告収入が減った→?
たぶん回復している(追記:減ったままでした) - (減少理由は圧力によるもの)→?2011年度は震災の影響で減少。
2012年は回復したと思われる - 売り上げ部数が飛躍的に増えた→× 減っている
- (部数増は読者の支持による)→? 不明。少なくとも部数は増えていない。
- 福島特別支局を新設した→ ○
- (その原資は売り上げ部数増による)→× 部数が増えていないので原資になりえない
追記:元の誤情報をTweetされていた方、1/6の深夜ごろ?にTweetを消したようです。誤情報が拡散されなくなったのはいいのですが、できれば誤情報であると訂正して欲しかった。
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