玄海原子力発電所3号機のトラブルで放射線観測値が上昇?

2010/12/14ネットの噂, フェイクニュース, 科学

追記:この他にも原発関連では怪しい情報が多く流れています。原子力発電所関連リンクに検証記事をまとめておきます。

twitterで流れてた噂。ちと気になったので調べて見た。「【緊急速報】九州から関西にかけて高レベル放射線を測定」が、その噂。玄海原子力発電所でトラブルが起きているのは事実で、ニュース報道や九州電力の広報でも伝えられている。問題は、それが外部に放射能が漏れるような事故なのか、だ。


噂の出所のブログでは「九州から関西にかけて、8000〜2000cmpの放射線値を観測しました」ということで、煽るような文章が書かれている。そこのコメント欄では「黄砂の影響」を指摘する冷静な意見もある。
(twitterでも時々デマが流れる。デマの検証サイト一覧を見て欲しい)


こういうときに頼りになるのは、行政やその他の団体が国内各地に設置している放射線モニタリングポスト。チェルノブイリ原発事故のときや、東海村JCO臨界事故のときも、各地のモニタリンググラフが頼りになった。いまではインターネットでそれが見れるのが21世紀という感じか。ということで早速見てみる。googleで「放射線 モニタリング」あたりで検索すると各地の情報がでてくる。偏西風を考えて玄海よりも東でなるべく近いところを選ぶ。先のブログではcpmが100倍なんて書かれてるので、もしそれが本当ならば各地の計測グラフにそれが反映されてるはずだし、遠隔地で100倍なら近隣ならもっと高い値になるはず。


放射線モニタリングシステムは原発を抱える自治体はみな運用しているし、それ以外にも学術目的に調査・公開しているところがあるのでクロスチェックできる。例えば、「環境放射線等モニタリングデータ公開システム」(環境省)だと一番近いのは四国の檮原測定所。測定グラフ(左図)を見ても報道のあった12/9、件のブログの日付12/11とも特に変化はない。12/13に放射線量が増えているのは降雨のせい(下の降水量のグラフ参照)。
ちなみに環境省は「環境省花粉観測システム(はなこさん)」なんてのも公開している。


玄海原発のある佐賀県は「佐賀県環境放射線モニタリングシステム」を公開している。こちらも降雨時点に増えてるぐらいで特に異常はなさそう。
こちらのシステムは、日付を指定して過去の測定値も見れるが、12/9~12/13まで見ても同様である。

件のブログの測定値の真相は、私にはわからない。少なくとも他のモニタリングでは異常は発見されていなさそう、としか言えない。これは続報待ちかなあ。
(どうも誤報っぽいですね。「「ガイガーカウンター」数値を喧伝し、デマを垂れ流す人間に対して」を参照のこと)
くれぐれも不確定情報をRTしまくらないように。慌てる前に勉強と調査。安易に陰謀論に走らない。「RikaTan 2010年12月号」が入門にはいいと思う。下記のCNICの文書(PDF)も。



降雨で放射線が増えるのは、大気中に含まれるラドンが分裂した後の娘核種が雨と一緒に降ってくるため。ラドンは気体で、地中のウランが崩壊して生成される。1階や地下室ではラドン濃度が高くなりやすいので注意が必要なぐらいどこにでもある。詳細はwikipedia:ラドンなどを見て欲しい。

黄砂でも放射線が増えるのは事実らしい。ぐぐると中国の核実験と関連させた文章が目立つが、これは要調査かな(中国蔑視と絡めたサイトが多いのが頭痛い)。実際に調査をした例は「黄砂に含まれる放射性セシウムの起源推定」・「Atmospheric deposition of radioactive cesium (137Cs) associated with dust events in East Asia」(農業環境技術研究所報告 第27号)ぐらいしか見つからないが、この中では「従来、137Csを含む砂塵の主要な供給源は核実験場が立地する中国西部の砂漠域であると考えられてきた。しかし本研究の結果から、供給源としての大陸の半乾燥地の重要性が示された」とのことである。「環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」(気象研究所地球化学研究部)では「高感度ICP-MSで240Pu/239Pu同位体比を測定した所、グローバルフォールアウト由来であることが明らかになった」としている。
追記: グローバルフォールアウト由来ということは、そこいらじゅうどこでも放射性物質が落ちてるということ。たまたま核実験が多かったときに雨が大量に降ったところの濃度が高いだけ。要はそれがどの程度多いかどうかがポイント。ある/ないで騒がないように。ちなみに、黄砂に関係なく雨が降っただけで放射線強度は上がりますから。