ホワイトノイズから情報を引き出す

2011/08/23ネットの噂, メディア

大昔、堀晃さんのSF「悪魔のホットライン」(太陽風交点収録)という名作があった。私は徳間文庫で読んだんだけど、それでも1981年出版なので30年前か。その作品にあった「ホワイトノイズから情報を引き出す」というネタを時々思い出す。


そもそもホワイトノイズとは何か。まずはWikipediaにあるホワイトノイズの定義:

ホワイトノイズ(White noise)、あるいは白色雑音(はくしょくざつおん)とは、不規則に上下に振動する波のこと。通常音声のホワイトノイズを指すことが多い。フーリエ変換を行い、パワースペクトルとすると、全ての周波数で同じ強度となる。「ホワイト」とは、全ての周波数を含んだ光が白色であることからその表現を借りたものである。ちなみに、ピンクノイズもホワイトノイズ同様、周波数成分が右肩下がりの光がピンク色であることからきたものである。簡単に言うと、「ザー」という音に聞こえる雑音がピンク・ノイズで、「シャー」と聞こえる音がホワイト・ノイズである

FMラジオで放送局の電波が入ってないときに聞こえる「シャー」音である。ここで重要なのはホワイトノイズには「全ての周波数の音」が含まれていることである。

さて、ラジオなどで放送電波を受信するときには、なるべく雑音が入らないように、聞きたい電波だけを選り分けないといけない。そのためにバンドパスフィルタを使い、放送電波の周波数付近だけを取り出す。フィルタの性能が悪いと、不必要な周波数まで拾いこんで雑音が増えたり混信が起きたりする。

さて、フィルタは左図のように必要な範囲の周波数をある幅で取り出すものだけれど、この幅を狭めていったらどうなるだろか?


30年ほど前のマイコン環境にも書いたけど、私はアマチュア無線で遊んでいたことがある。当時の初心者向け免許(電話級:今の4級)では送出してもいい電波出力10W。TVやラジオの放送局がkW単位なのと比べると1/100~1/1000ぐらいの強さである。その弱い電波で海外とも通信するのだから、アンテナを工夫したり受信機の感度を上げたり、いろんなことをするわけだ。モールス符号(トン・ツー)を使って電信(CW)で送ると単一信号を送れば済むので、これも良く使われていた (音声を送るのに比べて効率よく情報を送れる)。

電信(CW)では単一周波数を使うので、理論的には周波数の幅は0である。なので、フィルタの幅を狭めれば狭めるほど雑音が減って、遠くと通信できるのではないか?と誰でも考える。考えるよね?

ところが、実際には帯域を狭くしすぎると問題が発生する。

ホワイトノイズには定義上「全ての周波数」が含まれているのだから、「特定の周波数」だけを取り出すような操作をすれば、その周波数の信号だけが出てくる。常に何らかの信号があるような状態になるわけだ。これでは通信の役には立たない。

ネットをあちこち見ていると、世の中にはいろんな情報があるものだと思う。昨今だと原発事故関連の話題を調べてみると、安全側から超危険側までどんな情報でも見つかる。あきらかなデマである情報を本当らしく書いているサイトも数多い。健康やお金に関係するような興味を持つ人が多くいる分野では、正しい情報から大嘘まで、情報の幅が広いように感じる。

情報の幅がもっとも広いのがにちゃんねるのような匿名掲示板で、役に立つ情報から、匿名を隠れ蓑にした愉快犯の嘘情報まで、数多くの文章が転がっている。twitterにも愉快犯は数多く存在する。twitterでは情報元を吟味せずにretweetする人も多いので、嘘情報も多数流れている。

このような匿名掲示板やtwitterから「自分が興味を持つ情報だけ」を拾い上げるとどうなるか? 

ホワイトノイズを狭帯域フィルタに通したように「自分の意見を補強するような情報」だけが拾い出されてくる。検証せずにそれらの情報を取り入れると、世の中には自分の意見を裏付けるような情報が多くてそれ以外は捏造や陰謀に見えてくる。

にちゃんねるまとめサイトとかtwitterが主な情報源という人もいるらしいけど、恐ろしい話だな、と思う。
(著名人のtwitter発言の参照先URLがにちゃんねるまとめサイトになってるとがっくりする。元ネタがたぐれる場合はそこを参照して欲しいなあ…)

学校の勉強が苦手だった人がネットでいろいろ情報収集するとたいてい前よりバカになる」という名言はまさにそのような状態を指すのかもしれない。


悪魔のホットライン(太陽風交点)の話は、上記の狭帯域フィルタよりももっと面白い仕掛けになっていて、極めてSFなので興味のある方には一読をおすすめする。絶版になってるので、中古でしか手に入らないのが難点。

堀晃さんの本はどれも面白いので全部復刊して欲しいなあ。
(梅田地下オデッセイはWebで読めるけど。これも復刊して欲しい本の一つ)。

雑音と情報の話といえば、確率共鳴ってのも面白いんだけど、その話はまた いずれ。


リンク:

wikipediaにも変な情報が混ざってたりするので、リンク載せる時には一応チェックしてます。チェック後に嘘を書かれるかもしれないので、気休めかもしれないけど…