日本の地下水が放射能汚染されているという誤情報

2012/12/04ネットの噂, フェイクニュース


Twitterで原発関係の情報を探していたら、日本全国の地下水が汚染されている!と書いている人が何人かいた。アメリカ発の流出地図だそうだ。著名な新聞社のサイトであるWSJ.comに掲載されているのに流出も何もあったもんじゃないと思う。
(話の出所のサイトには地震の原因は原爆による地震兵器なんて書かれてて、この時点で怪しい情報だとわかるはずだけど、ねえ)

話題の地図は Radiation Found in Plant Groundwater – WSJ.comに掲載されている。福島第一原発の地下水汚染の記事。2011年の4月1日に書かれた記事だけど、April Foolということではないようだ。

この記事の中段ごろに地図が掲載されている。この地図には各地の原子力発電所の所在地に大きな丸が書かれているのだが……


左図にその地図の一部を引用。

福島に濃い赤丸。その他の原発所在地と東京や大阪付近にも黄緑色で丸がついている。この丸の意味はなんだろうか?

まず、図の説明を読むとこう書いてある。“The Japanese government monitors radiation levels around the country”。どこにも地下水だとは書いていない。

またWSJ.comの地図を拡大して丸をクリックすると測定地点が表示される。例えば東京付近の丸をクリックすると “Ukishima Kawasaki Ward, Kanagawa prefecture” と表示される。これはどこだろうか?

追記:丸の位置の間違いもあるようです(盛岡近辺とか)。ず’s » 日本の地下水が放射能汚染されているという誤情報(続き)に検証記事を書きました。

地図は日本の公開情報を元に書かれている

その地図の左にある色の説明を見てみる。

黄緑色は0~1μSv/h。仮に0であっても黄緑色の丸がつくわけだ。実際にはこれはどれぐらいの値なのだろうか?

WSJ.comは親切なことに参照したソースへのリンクを貼ってくれている。 “Source: Nuclear Safety Division, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (prefectures); Japan Atomic Industrial Forum (Fukushima plant)”と書かれているので、そこを見てみよう。

元データは空間放射線量率

最初のリンクの先は原子力規制委員会の委託事業として公益財団法人 原子力安全技術センターが作成しているサイトだ。日本語版があるので、そこの説明を読んでみよう。

この図は「原子力施設周辺周辺環境モニタリングデータの現況」「最新空間放射線量率一覧」ということで、地下水でもなんでもない。他に情報があるかと思って「地下水」で検索してみたが該当するページはないようだ。

このサイトでは各地の値は nGy/h で表されている。例えば、この記事を書いている時点では北海道の泊原発は最大50nGy/hになっている。wsj.comの図の説明にも “Radiation measurements are reported in grays/hour.” と書かれている。また、“The map at right shows measurements in sieverts, assuming a 1:1 correspondence to grays.” とあり、Gy/h を Sv/h に 1:1 変換して図を作成したようだ。

実際の空間放射線量は50nSv/h程度

つまり黄緑色の 0~1μSv/h の部分は実際には 50nGy/h (≒50nSv/h)程度のごく僅かな空間放射線量であったわけだ。他の原発周辺のモニタリング数値を見ても、現時点では茨城の112nGy/hが最高値。他の地点は2桁 nGy/hであり、福島以外の測定地点が黄緑色に塗られているのは不思議でもなんでもない。
(念のため。日本の環境放射線は原発がないところでも 1mSv/年ぐらい。100nSv/hの環境に1年間(24時間*365日=8760時間)いたときの被曝量は876000nSv/h=876μSv/h=0.8mSv/h なので100nGy/hでも気にすることはないです)。

なお、WSJ.comの地図で神奈川に丸がついていたのは、川崎区浮島(Ukishima Kawasaki Ward)に東芝原子力技術研究所などがありモニタリングが行われているためであることも、このサイトの情報からわかる。同様に大阪には近畿大学原子力研究所など、岡山・鳥取は人形峠環境技術センターがある。

ちなみに、2つ目のソースは 一般社団法人 日本原子力産業協会のサイトだ。ここには福島第一原発の情報が英語で書かれたPDFが置かれていて、福島の状況についてはこのサイトの情報を参考にしたと思われる。

結論

  • 地下水の汚染状況ではなく、従来から行われている空間線量のモニタリング結果の図である。
  • 黄緑色の丸は100nGy/h程度。原発がない場所の環境放射線量と同じぐらい。
  • 丸がついているのはモニタリングしている場所。東京付近の丸は神奈川県の浮島にある東芝原子力技術研究所
  • 東京や大阪の丸が広がってるように見えるのは、複数のモニタリング地点があるため。丸の大きさには意味はない。
  • 測定値の元情報は従来から公開されている原子力施設周辺周辺環境モニタリングデータ。秘密でもなんでもない。

広がってる誤情報は震央のマーク(赤4重丸)も誤解していて、「海底からも放射能」とか書いてあったりして頭が痛いです。

リンク