SUICAが沖縄でも利用可能に? 片利用共通接続システムについて
県内新聞2紙にSuicaが沖縄でも使えるようになる、との記事が掲載され、観光客や沖縄県外への出張が多い方の期待を集めている。OKICAが導入されたのはわずか2年半前の2014年10月であり、その時点では採算に難点があって県外カードとの連携は見送られていたはずだ。何が変わったのだろうか?
- Suicaなど、沖縄でも利用可能に 国交省が検討 – 琉球新報(2017年5月12日 17:37)
- Suica 沖縄県内利用も 国交省検討 観光客の利便性向上 – 琉球新報(2017年5月13日 12:03)
- 沖縄でもSuica利用可能へ 国交省が検討 | 沖縄タイムス+プラス(2017年5月12日 18:30)
- 沖縄でもSuica利用へ、国交省が仕組み導入検討 「来県者に利便性」 | 沖縄タイムス+プラス(2017年5月13日 10:42)
目次
なぜ県外カードと連携しなかったのか
以前、この件について調査※1した時点では、導入コストとランニングコストに加えてバス停の追加変更申請が2年前でないと行えないことが問題となっていた。
例えばOKICAの運用費用については那覇市議会の答弁※2にて「毎年の運営費で約5,000万円」、SUICA等と連携するとこれが4倍(+1.5億円)になるとされている。今でも沖縄本島のバス会社4社は年間3億を超える赤字※3を出しており、バス路線維持のために沖縄県は多額の補助を行なっている※4。さらに運営費がかかるのを避けたくなるのは当然だと思われる。
実際にOKICA導入時にはバス回数券が廃止され、多くの利用者にとっては実質15%値上げ状態となった※5,※6。仮にOKICA導入時点でSUICA連携を選択していたら、運賃が値上げされて一層バス離れが進んでいた可能性もある。なにしろ現在でも那覇市内均一運賃の230円は全国一高いのだ!
- ※2 平成26年 9月定例会-09月18日-07号 都市計画部長(兼次俊正) P.349
- ※3 2015年版(平成27年) 日本のバス事業
- ※4 陸上交通(バス路線の確保・維持)/沖縄県・平成22年度 県民視点による事業棚卸し - バス路線補助事業
- ※5 バス回数券、駆け込み購入の列 割引率15%「継続を」 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス
- ※6 県内路線バス回数券、あす販売終了 – 琉球新報
また、バス停留所の新設にかかる期間も大きな問題になる。「SUICAと連動すると駅やバス停を増やす場合には申請をしないといけないのですが、その申請を変更の2年前に行わないといけません」※7とのこと。最近はバスの運行も柔軟になって、利用客のニーズに合わせてバス停の新設も多くなっている。2年前申請では小回りが効かなくなることが心配だ。
「沖縄の新たな交通環境創造会議」報告会資料によると
記事中にある「沖縄の新たな交通環境創造会議」のサイト※8に報告資料が掲載されている。2017年5月11日付であり、これが琉球新報・沖縄タイムス記事(5/12,13掲載)の元になった資料だと思われる。資料内でカードについて触れているのは「全国系IC乗車券に対応したシステム導入の検討」(P.4)・「新たな交通環境実現に向けたロードマップ」(P.3)である。ロードマップを見るとH31年度(2019年度)以降に「インセンティブ施策の導入」となっている。
ただしこの資料では具体的に何がどうなるのかは詳しく記載されていない。
会議資料にはICカード以外にも様々な施作が掲載されており、興味深い内容となっている。一読をオススメする。
片利用共通接続システムとは何か
コスト面や運用面の課題はあっても、全国共通でICカードを使いたいという要望はあって、地域独自のカードと全国カードを連携させるためのシステムを作ろうという話は以前から存在した。各社がバラバラに連携すると費用がかかりすぎるので、連携部分を共通化し、コストを抑えようという目論見だ。2017年3月31日には国土交通省から“「片利用共通接続システム」の構築に関する方向性”※10,※11に関する発表が行われている。
(今回2紙が掲載した交通環境創造会議の元ネタも、基本的にはこの発表と同じだと思う。OKICA専用の対策ではなく、全国の地域カードのための方策となっている)
資料によると日本の大都市で使われている10種のカードに連携することで、それらのカードで運賃支払いとチャージが行えるようになる。地域カード(OKICA)は県外では使えない(片利用)。割引などの地域独自のサービスは地域カード(OKICA)のみ対象となる。
「片利用共通接続システム」の構築に関する方向性をとりまとめました 別紙
この発表資料では『課題解決の手段として、「片利用共通接続システム」の構築を提言』・『2020年度を見据えつつ、10カードの片利用導入を促進』とされており、構築スケジュールや運用事業体の立ち上げ、コスト面は「留意事項」となっている。2020年度が目標だが具体的にはこれから決めるというところだろうか。
結局のところどうなるの?
「片利用共通接続システム」の詳細がわからないと何とも言えないところが多い。疑問もいくつか出てきます。新聞社は頑張って取材してこの辺りを明確にしてくれると嬉しいです。
- 定期券や割引が必要な人はSUICA1枚にまとめることはできない
- 使えるようになるのは2020年度以降?
- 従来の接続方式よりもコスト低減が見込めるが、トータルの運用費用は増える?
- バス停の新設問題(2年前申請)は解決されるのか?
追記
「交通系ICカード「導入費用」は半端じゃない | 東洋経済オンライン」(2018/03/24)によると「地域で先行事業者が開発したシステムのいずれかを将来的に共通プラットフォーム化するという構想なのかもしれない」とのこと。
また、長野市公共交通活性化・再生協議会による「平成30年度 事業計画について」(2018/3/27)では「国の 「①片利用共通接続システム」を利用 … 国の動向が不透明なため ×」「②協議会が10カード事業者と直接協議 … 協議が進展しないため中断 ×」となっている。
この記事を書いて1年以上経過したが、結局「片利用共通接続システム」については現在のところ特に進捗はなさそうである。
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