テヘランではネズミを狙撃しているのは本当らしいが、IBTimesの記事と写真は変だ

2013/03/06ネットの噂, フェイクニュース

テヘランでは巨大化したネズミを駆除するために 銃で狙撃しているという話。本件はまったくのガセネタではなさそうだけど、妙な情報(放射能による巨大化とか)が紛れ込んでいるので調べてみた。

この情報はIBTimes経由で伝わってから2週間以上経つのに、真っ当なニュースソースからの情報が入ってこない。検索しても出てくるのは新興メディアであるIBTimesの孫引きばかり。どうもおかしい。


追記:ようやくCNNから報道がありました。銃で駆除されているが巨大化云々は触れられていません。私の調査結果と同じ。使われていたのは空気銃だったのか……

ネズミの繁殖に頭を悩ませるイランの首都テヘランで、狙撃チームが空気銃でネズミを撃つ訓練を受けている。

CNN.co.jp : イラン狙撃部隊が狙うのは「ネズミ」、40チームで退治作戦(2013.03.06 Wed posted at 12:46 JST)

追記:2/24に「日本語でよむ中東メディア」に翻訳が上がってました。見落としてた(><)
@ThrowDownJudoさんに教えていただきました)

【社会部:プーラーン・マフムーディー】我々の街にいるネズミたちは日々、肥え太り、活動を活発化させている。生息数もうなぎ登りで、各種の殺鼠剤ももはや効果が無い。その結果、市は首都のネズミ殲滅のために狙撃手を活用するまでになっている。
(中略)
メフル通信によると、ヘイダルザーデ氏は昨日の記者会見で、テヘランを最も悩ませている齧歯類は「ノルウェーネズミ」(ドブネズミ)というネズミだと指摘した上で、「この動物は外国から、港湾施設を通じて国内に流入したもので、主に褐色である。黒色のものもいる。

テヘラン市、首都のネズミ退治に狙撃手を起用(2013年02月18日付 Jam-e Jam紙)

元記事:نبرد تک تیراندازها با موش‌های پایتخت(写真あり)

元記事の写真を見る限りでは、巨大ねずみでもなんでもない。



IBTimes由来の記事が広がっている

日本国内では IBTimesの記事を元に2ちゃんねる系パクリサイトが面白おかしく編集した情報が広がっている。そもそも IBTimesがソースという時点で私は警戒するのだけれど、それはさておき。

Tehran, the capital of Iran, is battling an invasion of “genetically mutated" giant rats.

Iran has sent in sniper teams to clear Tehran’s streets from the massive rodents weighting up to five kilos plaguing 26 district of the Iranian capital, the city’s environmental agency said.

Tehran Battles Plague of 'Mutant’ Giant Rats with Army Snipers – IBTimes UK(February 20, 2013 1:08 PM GMT)

この記事の写真には “Iran’s capital of Tehran is infested by huge rats (Reuters)” と説明文が書かれている。写真の出所は Reuters ということなのだが、この写真を画像検索してもIBTimesの孫引きしか見つからなかった。

さらにロイターのサイト内を “iran rats” 等で検索しても記事が見つからない。

そもそもロイター配信記事であれば、「ロイター発」の記事として各国の新聞サイトにも掲載されそうなものだけど、それも見当たらない。この時点で何かがおかしい。

IBTimes記事は イスラエルTimes の孫引き?

The Times of Israel が類似記事を掲載している。タイムスタンプはIBTimes記事の少し前だ。 ソースが Qudsonline.ir であることなど、記事構成はほぼ同じ。

この記事には、IBTimesに掲載されている写真は無い。IBTimesはどこから写真を持ってきたのだろうか?

Iran, after years of systematically eliminating political opposition, is now facing a new enemy — rats. And these aren’t your garden-variety, run-of-the-mill vermin: some weigh as much as 5 kilograms (11 pounds) according to the website Qudsonline.ir.

Iran rolls out big guns in war on rats | The Times of Israel(February 20, 2013, 12:17 pm)

London Timesにも類似記事

Israel Times は記事内で London Times を引用している。Times は Daily Mail や The Sun に比べるとマトモなんだけど、イラン関連では『イランのイスファハンにて爆発?』・『イランのウラン濃縮施設で爆発』のようなイスラエル発の妙な記事が載ったりするので要注意だ。

London Timesの記事は全文を読むのは有料なのだが、無料で読める冒頭部分を読む限りでは The Times of Israel に類似しており、Israel Timesは これと Qudsonline.ir を元に記事を書いたのかもしれない。
(タイムスタンプでは Israel 側が古いように見える。要検証)

記事添付の写真も素材集由来と思われる写真が使われており、テヘランから得られた情報が少なかったことが推測できる。

The Iranian regime has plenty of experience when it comes to extermination, but usually the target is its political opponents.
Now it is seeking to crush a new enemy — the rats that are overrunning Tehran.

Iran sends out snipers to dispatch rats | The Times(Last updated at 12:39AM, February 20 2013)

IBTimesの写真も使い回し?

ここまで調べたところで、どうにも手がかりがなくなったので、Twitterで情報募集。すると、@y_y6181さんが フランス語の別内容の記事にIBTimesと同じ写真があることを教えてくださった。



教えていただいた www.maroc-hebdo.press.ma はモロッコのニュースサイトのようだが、記事に日付がない。サーバーからは “Last-Modified: Mon, 16 Jan 2012 13:15:06 GMT”と応答が返ってくるので、これを信じるならば IBTimes の1ヶ月前の情報だ。サイトには(c)2001の文字が残っている。

記事は一般的なねずみの害について書かれていて、イランとは特に関係が無さそうだ。

Des centaines de milliers de rats envahissent Casablanca et menacent la santé des citoyens
Les rats attaquent

La situation est sanitairement grave aujourd’hui dans les hôpitaux,dans les bidonvilles, dans la ville basse. Mais demain, elle le sera également dans les
quartiers chics. Du côté des communes, c’est le silence radio. Elections obligent, tous les élus se sont mis aux abonnés absents

Les rats attaquent

2000年にテヘランで撮影された写真

さらに興味深いのは、Maroc hebdo の写真に残されている EXIF情報だ。IBTimesの写真にはEXIFは無いので、こちらの写真の方がよりオリジナルに近い可能性がある。EXIFにはこう書かれている。

Caption-Abstract

TEH01:TEHRAN,IRAN,20MAY00 – A young voluteer picks up a dead rat from an open drainage channel in Tehran May 20. Tehran has a plague of rats estimated to number up to 25 million after winter snows melted raising the underground water level and flushing the rats from their nests. Municipal authorities have imported approximately 45 tons of rat poison and set up information tents to help deal with the plague. cjf/Photo by STR REUTERS
City

TEHRAN
Country-PrimaryLocationName

Iran
Credit

REUTERS
DateCreated

20000520
Headline

TEHRAN CLEANS UP DEAD RATS
OriginatingProgram

Reuter Mini Picture Desk/MED

このEXIF情報からすると写真の配信者は Reuters なのだが、撮影日は2000年5月20日だ。Caption-Abstractにある写真概要には「冬の雪が溶けた後に地下水位が上昇し、2500万匹のネズミを彼らの巣から締め出した」といったことが書かれている。13年も前の写真を IBTimesは使いまわしたようだ。
(Tehran Rats: Iran Reportedly Battles Giant 'Mutant’ Rodents With Snipers (PHOTO)の写真にも同じEXIFが残されていました)

2000年当時の報道は?

BBCの過去記事に当時の報道がある。内容はロイターの写真のCaptionとほぼ同じだ。写真は2000年に撮影されたものと考えて良さそうだ。

つまり 2000年当時にも ねずみ騒ぎがあり、そのときに掲載した写真をIBTimesやその他のメディアが使いまわしたわけだ。なので、最近このサイズに巨大化したということでもない。

なお、ロイターの写真でもBBCの記事でも ねずみの大きさについては特に触れられていない。問題になったのはねずみの大きさではなく2500万匹という数であったようだ。

Google 画像検索(Giant Rat)でも、この程度の大きさのねずみの写真は多数見つかるし。
(日本のドブネズミも25-30cmぐらいにはなります。例:足立区/ネズミの被害にご注意を

Tehran authorities are launching a new scheme to rid the Iranian capital of an estimated 25 million rats.

Tons of rat poison have been imported for a month-long campaign that residents hope will free the capital of the pests.

BBC News | MIDDLE EAST | Tehran combats rat plague(Saturday, 13 May, 2000, 11:10 GMT 12:10 UK)

日本国内の多くのメディアとは異なり、海外メディアは記事を残してくれるので非常に助かる。なんで国内メディアは記事を消しちゃうんだろうな。

ネズミ狙撃兵がいるのは本当っぽい

イラン国内メディアを探すと、ISNA通信がネズミ駆除の様子や狙撃兵の写真を掲載している。Timesの記事は元々は この記事がソースなのではなかろうか。そして、IBTimesは この記事を見ていないと思われる(見ていたら、狙撃兵の写真使うよね)。

記事内容には Israel Times にある “seem to have had a genetic mutation, probably as a result of radiations and the chemical used on them.” というのは見当たらない。巨大という話もない。Google翻訳はペルシア語の翻訳は苦手なので、翻訳精度の問題かもしれないが。

20130305-isna-1

شلیک تک‌تیراندازها به موش‌های پایتخت/ آغاز خفت‌گیری سگ‌های تهران
» سرویس: اجتماعي – محيط زيست
کد خبر: 91112917756
یکشنبه ۲۹ بهمن ۱۳۹۱ – ۱۲:۰۹

ایسنا – شلیک تک‌تیراندازها به موش‌های پایتخت/ آغاز خفت‌گیری سگ‌های تهران

qudsonline.irの記事

Israel Times や IBTimes は “the website Qudsonline.ir” の記事もソースにしていると書かれている。推測だがQudsonlineも新興メディアの一つなのだろう。所在地はテヘランから700Km以上離れた Mashhad だ。

Israel Timesが参考にしたのは下記の記事だと思われる。冒頭をGoogle翻訳すると「突然変異は危険だった。テヘランの市民を攻撃してラットに5キロ」になる。怪しい情報はこのサイトから来ているようだ。

なぜ Israel Times は ISNA通信の報道だけではなく、このサイトの情報を使ったのだろうか?

جهش ژنتیکی خطرناک شد
حمله موشهای 5 کیلویی به شهروندان تهرانی
کهرم با تاکید بر اینکه دلیل عدم موفقیت شهرداری تهران مقاوم بودن این حیوان است، اظهار کرد: اگر در جایی بمب اتم بیاندازند، موش‌ها در کنار سوسک‌های حمام زنده می‌مانند آن وقت چه طور می‌توان امیدوار بود که این حیوانات موذی با اقدامات شهرداری تهران از بین برود!

پایگاه خبری – تحلیلی قدس آنلاین – حمله موشهای 5 کیلویی به شهروندان تهرانی

問題は Qudsonline の記事が信頼できるかどうかだけど、さすがにそこまでの情報は探せなかった。「イラン・メディアリンク集」等には載っていないので、お察しください……かな。

結論

ネズミ狙撃兵がいるのは本当のようだが、ネズミの大きさや突然変異云々は Qudsonline だけの情報。イラン関連記事ではあまり信頼できない Israel Times や London Times とその孫引きばかりが この情報を伝えているのも変。
(毒が効かない耐性ネズミが存在するのは事実。スーパーラットを検索すればわかります。日本国内でも問題になっている)

Google 画像検索(Giant Rat)すれば巨大ネズミは珍しくないようなので、無理に放射能などに理由を求める必要もないと思われます。

ただ、ペルシア語の壁に阻まれて真偽を確認できないので、これ以上の調査はペルシア語がちゃんと翻訳できる人にお願いするか、Reuters や AFP などの報道を待つしかないと思います。

過去の London Times のイラン関係のガセ記事:

CNNから続報が出ました

空気銃で駆除という記事です。巨大化等についての記述なし。

ぐるっと一回り

Iranian National News Agencyが Times→IBTimes→Huffingtonpostと伝わった記事と写真を Facebook で流している。おいおい(^^;

ロシアでもネズミ退治に銃を使う人が

47 летний рабочий из Москвы утверждает, что за семь лет убил семь тысяч крыс. Геннадий совмещает приятное с полезным: он занимается крысингом — отстрелом грызунов на городских помойках.

Московский охотник-крысобой : НОВОСТИ В ФОТОГРАФИЯХ

おまけ

私は遊んだことはないのですが、PlayStation3のゲーム「バトルフィールド3」にはイランの巨大ネズミが出てくるようです。有名な話なのね。




(BF3 – Giant Iranian Rats – YouTube)